牡丹餅《ぼたもち》の代金
[1] 昔、ある寺に、①和尚《おしやう》の甚だ慳貪《けんどん》【注1】なるありけり。寺の小僧ども、常々腹を空かせて、「せめて一度、甘き物たらふく食ひたきものかな」とこぼし合ひてはべりき。ある日のこと、門前に牡丹餅売りの来たりて、いと美味げなる声を張り上げたり。
[2] 小僧の一人、聡き者なりけるが、和尚のもとへ行き、「門前の商人《あきうど》が、和尚様にぜひにと、牡丹餅を一つ献上仕《つかまつ》りてはべり」とて、隠し持ちたる銭にて牡丹餅を一つ買ひ、和尚に奉る。和尚、思ひがけぬことに喜びて、これを食らふに、②類ひなく美味なり。「うむ、こは見事なり。褒美として、この商人に銭をやれ」とて、小僧に銭を十文《じふもん》ばかり渡しけり。
[3] 小僧、その銭を持ちて門前に走り出で、己が懐《ふところ》を潤し、残りの銭にて、仲間たちの分の牡丹餅を数多《あまた》買ひて戻る。仲間ども、(ア)事の次第を聞きて、「汝《なんぢ》は、まことの知恵者なり」とて、涙を流して喜び、陰に隠れて、その牡丹餅を分け合ひて食らひける、とぞ。
[4] ③されば、ただ正直なるのみが道にあらず。時には、人を傷つけぬ偽りも、事を円満に進むる方便となりぬるものを。
【注1】慳貪:けちで欲深いこと。
【登場人物と行動】
| 人物 | 性格 | 行動 |
|---|---|---|
| 和尚 | けちで欲深い | 小僧の嘘に気づかず牡丹餅を食べ、褒美のつもりで銭を渡す。 |
| 小僧(聡き者) | 機転が利く | 自腹で牡丹餅を買い和尚に献上したと嘘をつき、和尚から褒美の銭を得て、仲間たちの分の牡丹餅を買う。 |
| 小僧の仲間たち | — | 小僧の機転に感心し、牡丹餅を分け合って喜ぶ。 |
| 牡丹餅売り | — | 門前で商いをする。 |
傍線部①「和尚の甚だ慳貪なる」とあるが、本文中の和尚のどのような行動が、その性格を最もよく示しているか。次の中から一つ選べ。
傍線部②「類ひなく美味なり」とあるが、和尚がことさらそう感じたのはなぜか。その理由として、本文の内容から考えられる最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部(ア)「事の次第を聞きて」とあるが、「事の次第」の内容として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部③「されば」は、前の段落までの物語全体を受けて、筆者の意見や教訓を導く働きをしている。この物語から導かれる教訓として、筆者が述べようとしていることに最も近いものを、次の中から一つ選べ。
牡丹餅《ぼたもち》の代金
[1] 昔、ある寺に、①和尚《おしやう》の甚だ慳貪《けんどん》【注1】なるありけり。寺の小僧ども、常々腹を空かせて、「せめて一度、甘き物たらふく食ひたきものかな」とこぼし合ひてはべりき。ある日のこと、門前に牡丹餅売りの来たりて、いと美味げなる声を張り上げたり。
[2] 小僧の一人、聡き者なりけるが、和尚のもとへ行き、「門前の商人《あきうど》が、和尚様にぜひにと、牡丹餅を一つ献上仕《つかまつ》りてはべり」とて、隠し持ちたる銭にて牡丹餅を一つ買ひ、和尚に奉る。和尚、思ひがけぬことに喜びて、これを食らふに、②類ひなく美味なり。「うむ、こは見事なり。褒美として、この商人に銭をやれ」とて、小僧に銭を十文《じふもん》ばかり渡しけり。
[3] 小僧、その銭を持ちて門前に走り出で、己が懐《ふところ》を潤し、残りの銭にて、仲間たちの分の牡丹餅を数多《あまた》買ひて戻る。仲間ども、(ア)事の次第を聞きて、「汝《なんぢ》は、まことの知恵者なり」とて、涙を流して喜び、陰に隠れて、その牡丹餅を分け合ひて食らひける、とぞ。
[4] ③されば、ただ正直なるのみが道にあらず。時には、人を傷つけぬ偽りも、事を円満に進むる方便となりぬるものを。
【注1】慳貪:けちで欲深いこと。
【登場人物と行動】
| 人物 | 性格 | 行動 |
|---|---|---|
| 和尚 | けちで欲深い | 小僧の嘘に気づかず牡丹餅を食べ、褒美のつもりで銭を渡す。 |
| 小僧(聡き者) | 機転が利く | 自腹で牡丹餅を買い和尚に献上したと嘘をつき、和尚から褒美の銭を得て、仲間たちの分の牡丹餅を買う。 |
| 小僧の仲間たち | — | 小僧の機転に感心し、牡丹餅を分け合って喜ぶ。 |
| 牡丹餅売り | — | 門前で商いをする。 |
傍線部①「和尚の甚だ慳貪なる」とあるが、本文中の和尚のどのような行動が、その性格を最もよく示しているか。次の中から一つ選べ。
傍線部②「類ひなく美味なり」とあるが、和尚がことさらそう感じたのはなぜか。その理由として、本文の内容から考えられる最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部(ア)「事の次第を聞きて」とあるが、「事の次第」の内容として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部③「されば」は、前の段落までの物語全体を受けて、筆者の意見や教訓を導く働きをしている。この物語から導かれる教訓として、筆者が述べようとしていることに最も近いものを、次の中から一つ選べ。