現代文
実利社会における「無用の知」の役割
8回解答
普通
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現代文
実利社会における「無用の知」の役割
8回解答
普通
役に立たないことの価値
[1] 「それは、何の役に立つのか」。これは、現代社会において、あらゆる物事の価値を測るための、支配的な問いかけとなっている。学問も、芸術も、個人の趣味でさえも、キャリア形成や経済的利益といった「役に立つ」という観点からその存在意義を問われる。この実利主義的な価値観は、確かに社会を発展させ、私たちの生活を豊かにしてきた。しかし、傍線部①この問いかけが、私たちの精神世界から、ある種の豊かさを奪い去っていることにも、私たちは気づくべきである。
[2] すぐには「役に立たない」ように見える知識、いわゆる「無用の知」は、人間にとってなぜ必要なのだろうか。古代ギリシャの哲学者が宇宙の根源を問うたのも、中世の神学者が天使の数を論じたのも、直接的な生産活動に結びつくものではなかった。しかし、こうした一見すると無用な思索の積み重ねこそが、人間が自らの存在や世界を深く理解するための礎《いしずえ》を築いてきた。無用の知は、私たちを日々の利害関係や目先の効率性から解放し、より広く、より長期的な視点から物事を捉えるための「精神の遊び場」を提供してくれる。
[3] この「精神の遊び場」を失った人間は、どうなるか。おそらく、既存の価値観や社会が用意した「正解」の中に安住し、物事を多角的に捉える能力を失っていくだろう。役に立つことだけを追求する態度は、私たちを効率的な「部品」にはするかもしれないが、未知の状況に対応し、新たな価値を創造する、しなやかな知性を育む土壌とはなり得ない。これは、決まったルートしか走れない特急列車のようなものだ。速く目的地に着くことはできるが、道草を食ったり、思いがけない景色に出会ったりすることはできない。
[4] 傍線部②無用の知の価値は、その「無目的性」にこそある。何かの手段としてではなく、知ることそれ自体を目的とする探究心。その純粋な好奇心こそが、予期せぬ発見や、既存の枠組みを打ち破るような革新の源泉となるのだ。歴史を振り返れば、多くの偉大な科学的発見が、当初は「何の役に立つのか」不明な、純粋な知的好奇心から生まれている。例えば、数学の整数論【注1】は、長らく純粋数学の華とされ、実用的な応用はないと考えられてきたが、現代では暗号技術の基礎として社会に不可欠なものとなっている。
[5] 「役に立つ」という物差しだけで世界を測ることは、いわば世界の解像度を意図的に下げてしまう行為に他ならない。私たちは、実利的な知と無用の知、その両翼があって初めて、人間として豊かに飛翔することができる。役に立たないことに心を遊ばせる余裕こそが、予測困難な未来を生き抜くための、最も「役に立つ」力となるのかもしれない。
【注1】整数論:整数の性質について研究する数学の一分野。
資料:筆者の読書メモ
傍線部①「この問いかけが、私たちの精神世界から、ある種の豊かさを奪い去っている」と筆者が考えるのはなぜか。その理由として最も適切なものを一つ選べ。
第[3]段落の「これ」が指す内容として最も適切なものを一つ選べ。
傍線部②「無用の知の価値は、その『無目的性』にこそある」とあるが、どういうことか。本文と資料を踏まえた説明として最も適切なものを一つ選べ。
本文の議論と資料の要点を踏まえ、次の群Iの具体例が、群IIのどの概念の説明として最も適切か、その組み合わせを一つ選べ。
群I
群II
役に立たないことの価値
[1] 「それは、何の役に立つのか」。これは、現代社会において、あらゆる物事の価値を測るための、支配的な問いかけとなっている。学問も、芸術も、個人の趣味でさえも、キャリア形成や経済的利益といった「役に立つ」という観点からその存在意義を問われる。この実利主義的な価値観は、確かに社会を発展させ、私たちの生活を豊かにしてきた。しかし、傍線部①この問いかけが、私たちの精神世界から、ある種の豊かさを奪い去っていることにも、私たちは気づくべきである。
[2] すぐには「役に立たない」ように見える知識、いわゆる「無用の知」は、人間にとってなぜ必要なのだろうか。古代ギリシャの哲学者が宇宙の根源を問うたのも、中世の神学者が天使の数を論じたのも、直接的な生産活動に結びつくものではなかった。しかし、こうした一見すると無用な思索の積み重ねこそが、人間が自らの存在や世界を深く理解するための礎《いしずえ》を築いてきた。無用の知は、私たちを日々の利害関係や目先の効率性から解放し、より広く、より長期的な視点から物事を捉えるための「精神の遊び場」を提供してくれる。
[3] この「精神の遊び場」を失った人間は、どうなるか。おそらく、既存の価値観や社会が用意した「正解」の中に安住し、物事を多角的に捉える能力を失っていくだろう。役に立つことだけを追求する態度は、私たちを効率的な「部品」にはするかもしれないが、未知の状況に対応し、新たな価値を創造する、しなやかな知性を育む土壌とはなり得ない。これは、決まったルートしか走れない特急列車のようなものだ。速く目的地に着くことはできるが、道草を食ったり、思いがけない景色に出会ったりすることはできない。
[4] 傍線部②無用の知の価値は、その「無目的性」にこそある。何かの手段としてではなく、知ることそれ自体を目的とする探究心。その純粋な好奇心こそが、予期せぬ発見や、既存の枠組みを打ち破るような革新の源泉となるのだ。歴史を振り返れば、多くの偉大な科学的発見が、当初は「何の役に立つのか」不明な、純粋な知的好奇心から生まれている。例えば、数学の整数論【注1】は、長らく純粋数学の華とされ、実用的な応用はないと考えられてきたが、現代では暗号技術の基礎として社会に不可欠なものとなっている。
[5] 「役に立つ」という物差しだけで世界を測ることは、いわば世界の解像度を意図的に下げてしまう行為に他ならない。私たちは、実利的な知と無用の知、その両翼があって初めて、人間として豊かに飛翔することができる。役に立たないことに心を遊ばせる余裕こそが、予測困難な未来を生き抜くための、最も「役に立つ」力となるのかもしれない。
【注1】整数論:整数の性質について研究する数学の一分野。
資料:筆者の読書メモ
傍線部①「この問いかけが、私たちの精神世界から、ある種の豊かさを奪い去っている」と筆者が考えるのはなぜか。その理由として最も適切なものを一つ選べ。
第[3]段落の「これ」が指す内容として最も適切なものを一つ選べ。
傍線部②「無用の知の価値は、その『無目的性』にこそある」とあるが、どういうことか。本文と資料を踏まえた説明として最も適切なものを一つ選べ。
本文の議論と資料の要点を踏まえ、次の群Iの具体例が、群IIのどの概念の説明として最も適切か、その組み合わせを一つ選べ。
群I
群II