無用の草《くさ》
[1] 人の情けは、当てにならぬものなり。親しき友とて、昨日までは睦まじく語らひしも、今日はそ知らぬ顔にて、疎《うと》きこと限りなし。①利害の変はるにつけて、人の心も移ろふは、世の常のならひにこそ。
[2] さるべき故ありて、しばし世を背《そむ》き、片田舎に引き籠もりて侍りしころ、訪《と》ふ人も絶え果てて、心細き夕暮れ、庭を眺むれば、夏草おい茂りて、道もわかぬほどなり。昔は、折々の花を植ゑ、朝夕に水をやりて、風情を尽くししも、今は見る影もなし。②この荒れたる庭こそ、我が心の内の景色なれ、と眺めつつ、涙も落ちぞしける。
[3] 中でも、(ア)何の役にも立たぬと思ひて、常々引き抜きて捨てし雑草《ざふさう》ども、今は盛りと咲き誇り、蝶や蜂、いと多く集まりて遊ぶ。(イ)かれらは、庭の主《あるじ》の栄枯《えいこ》など知らぬげに、ただ今を盛りと生きる様、かへつて心強し。③人に疎まれし我が身も、この草のごとく、なにか天の与へし役目やあるらむ、と思ひ直して、少し慰みはべりき。
[4] 人の世の交はりは、よしなく【注1】移ろへど、草木のありさまは、偽りなし。花は時を知りて咲き、草は地を得て茂る。その理《ことわり》こそ、まことに尊ぶべけれ。
【注1】よしなく:理由もなく、たわいもなく。
【筆者の心境の変化】
| 段階 | 状況 | 心情 | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 1 | 人の心の移ろいやすさを嘆く。 | 絶望・不信 | 友人に裏切られた経験など。 |
| 2 | 隠遁生活で孤独を感じ、荒れた庭に自身の心を重ねる。 | 孤独・悲嘆 | 荒れ果てた庭の光景。 |
| 3 | 無用と思っていた雑草が生き生きとしている様子を見る。 | 気づき・慰め | 雑草に集まる虫たちの姿。 |
| 4] 人の世の不確かさに対し、自然の摂理の確かさに真理を見出す。 | 諦観・悟り | 草木のありのままの姿。 |
傍線部①「利害の変はるにつけて、人の心も移ろふ」とあるが、筆者は人の心についてどのように考えているか。その説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部②「この荒れたる庭こそ、我が心の内の景色なれ」とあるが、筆者はどのような思いからこのように述べたのか。その説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
本文の[2]段落以降で示される筆者の心境の変化を、(ア)~(エ)として時間順に並べたとき、その順序として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
並べ替える出来事:
[4]段落の末尾にある「尊ぶべけれ」の「べけれ」に関する文法的な説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
無用の草《くさ》
[1] 人の情けは、当てにならぬものなり。親しき友とて、昨日までは睦まじく語らひしも、今日はそ知らぬ顔にて、疎《うと》きこと限りなし。①利害の変はるにつけて、人の心も移ろふは、世の常のならひにこそ。
[2] さるべき故ありて、しばし世を背《そむ》き、片田舎に引き籠もりて侍りしころ、訪《と》ふ人も絶え果てて、心細き夕暮れ、庭を眺むれば、夏草おい茂りて、道もわかぬほどなり。昔は、折々の花を植ゑ、朝夕に水をやりて、風情を尽くししも、今は見る影もなし。②この荒れたる庭こそ、我が心の内の景色なれ、と眺めつつ、涙も落ちぞしける。
[3] 中でも、(ア)何の役にも立たぬと思ひて、常々引き抜きて捨てし雑草《ざふさう》ども、今は盛りと咲き誇り、蝶や蜂、いと多く集まりて遊ぶ。(イ)かれらは、庭の主《あるじ》の栄枯《えいこ》など知らぬげに、ただ今を盛りと生きる様、かへつて心強し。③人に疎まれし我が身も、この草のごとく、なにか天の与へし役目やあるらむ、と思ひ直して、少し慰みはべりき。
[4] 人の世の交はりは、よしなく【注1】移ろへど、草木のありさまは、偽りなし。花は時を知りて咲き、草は地を得て茂る。その理《ことわり》こそ、まことに尊ぶべけれ。
【注1】よしなく:理由もなく、たわいもなく。
【筆者の心境の変化】
| 段階 | 状況 | 心情 | きっかけ |
|---|---|---|---|
| 1 | 人の心の移ろいやすさを嘆く。 | 絶望・不信 | 友人に裏切られた経験など。 |
| 2 | 隠遁生活で孤独を感じ、荒れた庭に自身の心を重ねる。 | 孤独・悲嘆 | 荒れ果てた庭の光景。 |
| 3 | 無用と思っていた雑草が生き生きとしている様子を見る。 | 気づき・慰め | 雑草に集まる虫たちの姿。 |
| 4] 人の世の不確かさに対し、自然の摂理の確かさに真理を見出す。 | 諦観・悟り | 草木のありのままの姿。 |
傍線部①「利害の変はるにつけて、人の心も移ろふ」とあるが、筆者は人の心についてどのように考えているか。その説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部②「この荒れたる庭こそ、我が心の内の景色なれ」とあるが、筆者はどのような思いからこのように述べたのか。その説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
本文の[2]段落以降で示される筆者の心境の変化を、(ア)~(エ)として時間順に並べたとき、その順序として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
並べ替える出来事:
[4]段落の末尾にある「尊ぶべけれ」の「べけれ」に関する文法的な説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。