二人の笛吹き
[1] 昔、ある大臣《おとど》に、太郎、次郎といふ二人の子ありけり。兄の太郎は、生まれつき笛の道に優れ、その音色は天人も聞き惚《ほ》るほどと、世にめでられき。弟の次郎も、同じく笛を学ぶに、①兄には遥かに及ばざりければ、(ア)心の内には、常々ねたき【注1】思ひをぞ抱きける。
[2] ある秋の夜、内裏《だいり》にて月見の宴あり。大臣、太郎に、父祖伝来の名笛《めいてき》「青葉」を授け、「今宵、御前にてその妙音《めうおん》を響かせよ」と命じたまふ。次郎、その様を傍らより見て、②羨ましさと口惜しさに、唇を噛みしめるばかりなり。
[3] 宴の後、太郎、酔ひて心地よく眠りたる間に、次郎、そっと兄の枕元より笛を取り、庭の古井戸のほとり、苔むす石の陰に隠してけり。次の朝、笛のなきに気づきし太郎、血の気を失ひて探し回れど、(イ)いづくにも見当たらず。父の大臣の怒りは甚だしく、「家の宝を失ふは、そなたの不心得の致すところなり」とて、太郎を厳しく叱りたまふ。太郎、ただ涙に暮るるのみ。
[4] その夜、次郎、兄の嘆きと父の怒りを思ひ、③さすがに罪の恐ろしくなりて、井戸のほとりへ笛を取りに戻る。されど、いかに探せども、笛は跡形もなし。狐狸《こり》のしわざにや。次郎、蒼白《さうはく》になりて、なすべき方もなく立ち尽くせり。その時、(ウ)空より澄み渡る笛の音聞こゆ。人々、空を仰げば、月の光の中、かの「青葉」の笛、ひらひらと舞ひ降りて、太郎の膝の上に落ちたり。その音色は、太郎が吹くにも勝りて、妙なること限りなし。これを見て、次郎、己が非を悟り、兄の前にて泣き伏し、すべてを白状したるとぞ。大臣も太郎も、これを許し、兄弟、元の如く睦まじくなりぬ。
【注1】ねたし:しゃくにさわる、憎らしい。
【補助資料:次郎の心境の変化】
| 段階 | 行動 | 心情 |
|---|---|---|
| 1 | 兄が父から名笛を授かるのを見る。 | 兄への嫉妬、自分の不遇を嘆く気持ち。 |
| 2 | 兄が寝ている間に笛を隠す。 | 一時の嫉妬心に駆られた衝動的な行動。 |
| 3 | 兄と父の苦悩を見て、笛を戻しに行く。 | 後悔、罪悪感、恐怖。 |
| 4 | 笛が天から舞い降りる奇跡を見る。 | 驚愕、畏怖、改心。 |
| 5 | 兄に罪を告白し、許される。 | 安堵、兄への感謝、和解。 |
傍線部①「兄には遥かに及ばざり」とあるが、これに対する次郎の心情(ア)「心の内には、常々ねたき思ひ」とは、どのような気持ちか。その説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部②「羨ましさと口惜しさ」を感じた次郎が、兄の笛を隠すという行動に出た直接のきっかけは何か。本文に即して、次の中から一つ選べ。
傍線部③「さすがに罪の恐ろしくなりて」とあるが、次郎がそのように感じたのはなぜか。その理由として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
この物語で起こった出来事に関する説明として、本文の内容に合致するものを、次のア~オの中から二つ選んだとき、その組合せとして最も適当なものを、後の中から一つ選べ。
二人の笛吹き
[1] 昔、ある大臣《おとど》に、太郎、次郎といふ二人の子ありけり。兄の太郎は、生まれつき笛の道に優れ、その音色は天人も聞き惚《ほ》るほどと、世にめでられき。弟の次郎も、同じく笛を学ぶに、①兄には遥かに及ばざりければ、(ア)心の内には、常々ねたき【注1】思ひをぞ抱きける。
[2] ある秋の夜、内裏《だいり》にて月見の宴あり。大臣、太郎に、父祖伝来の名笛《めいてき》「青葉」を授け、「今宵、御前にてその妙音《めうおん》を響かせよ」と命じたまふ。次郎、その様を傍らより見て、②羨ましさと口惜しさに、唇を噛みしめるばかりなり。
[3] 宴の後、太郎、酔ひて心地よく眠りたる間に、次郎、そっと兄の枕元より笛を取り、庭の古井戸のほとり、苔むす石の陰に隠してけり。次の朝、笛のなきに気づきし太郎、血の気を失ひて探し回れど、(イ)いづくにも見当たらず。父の大臣の怒りは甚だしく、「家の宝を失ふは、そなたの不心得の致すところなり」とて、太郎を厳しく叱りたまふ。太郎、ただ涙に暮るるのみ。
[4] その夜、次郎、兄の嘆きと父の怒りを思ひ、③さすがに罪の恐ろしくなりて、井戸のほとりへ笛を取りに戻る。されど、いかに探せども、笛は跡形もなし。狐狸《こり》のしわざにや。次郎、蒼白《さうはく》になりて、なすべき方もなく立ち尽くせり。その時、(ウ)空より澄み渡る笛の音聞こゆ。人々、空を仰げば、月の光の中、かの「青葉」の笛、ひらひらと舞ひ降りて、太郎の膝の上に落ちたり。その音色は、太郎が吹くにも勝りて、妙なること限りなし。これを見て、次郎、己が非を悟り、兄の前にて泣き伏し、すべてを白状したるとぞ。大臣も太郎も、これを許し、兄弟、元の如く睦まじくなりぬ。
【注1】ねたし:しゃくにさわる、憎らしい。
【補助資料:次郎の心境の変化】
| 段階 | 行動 | 心情 |
|---|---|---|
| 1 | 兄が父から名笛を授かるのを見る。 | 兄への嫉妬、自分の不遇を嘆く気持ち。 |
| 2 | 兄が寝ている間に笛を隠す。 | 一時の嫉妬心に駆られた衝動的な行動。 |
| 3 | 兄と父の苦悩を見て、笛を戻しに行く。 | 後悔、罪悪感、恐怖。 |
| 4 | 笛が天から舞い降りる奇跡を見る。 | 驚愕、畏怖、改心。 |
| 5 | 兄に罪を告白し、許される。 | 安堵、兄への感謝、和解。 |
傍線部①「兄には遥かに及ばざり」とあるが、これに対する次郎の心情(ア)「心の内には、常々ねたき思ひ」とは、どのような気持ちか。その説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部②「羨ましさと口惜しさ」を感じた次郎が、兄の笛を隠すという行動に出た直接のきっかけは何か。本文に即して、次の中から一つ選べ。
傍線部③「さすがに罪の恐ろしくなりて」とあるが、次郎がそのように感じたのはなぜか。その理由として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
この物語で起こった出来事に関する説明として、本文の内容に合致するものを、次のア~オの中から二つ選んだとき、その組合せとして最も適当なものを、後の中から一つ選べ。