雪の朝《あした》
[1] 師走《しわす》十日あまり、空掻き曇り、雪いたう降りたる朝、若君《わかぎみ》は、御格子《みかうし》を押し開けて、「あな、白たへの【注1】景色や。姉上、疾《と》く起きさせたまへ。」と、御帳台《みちやうだい》に寄りて、いと騒がしう申したまふ。まだ九つばかりに(ア)おはします姫君、眠たげに目を開け、「などかう朝寒きに。」とて、なほ衾《ふすま》を引き被《かづ》き①たまひけり。
[2] 若君、「姉上は、げに②寝過ごしびとにこそ。かくをかしき雪景色を、見過ごしたまふは、いと口惜しきわざなり。」とて、強ひてその御手を取りて、縁《えん》の方へ誘ひ聞こゆ。姫君、致し方なく起き上がり、素足のままで縁に出づるに、雪の冷たさ、身にしむばかりなり。「(イ)あな、冷たや。」と思はず声に出でぬ。
[3] 二人、庭に降りて、雪を丸め、小さき雪うさぎをこしらへたまふ。若君、木の実を取りて、うさぎの目となし、姫君は、椿の葉を取りて、その耳とす。やがて、侍女《じじよ》の紅葉《もみじ》が、熱き甘酒を持ちて参るに、二人、「こは、ありがたき馳走《ちそう》かな。」とて、白き息を吐きつつ、③嬉しげにこれを飲み干しはべり。
[4] その様を、御簾《みす》の内より、母君なる女院《によゐん》【注2】、静かに御覧じ、「幼き者は、げに風の子よな。」と、うち笑みたまひて、その日のことを、御日記に細々と書き付けさせたまひけるとぞ。
【注1】白たへ:白い布。雪が積もった様子の美しい形容。 【注2】女院:夫である天皇の死後などに出家した元皇后など。ここでは姫君と若君の母。
【登場人物】
傍線部(ア)「おはします」について、ここでの敬語の種類と敬意の対象の組み合わせとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部②「寝過ごしびと」とあるが、若君がこのように言ったのはなぜか。その理由として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部③「嬉しげにこれを飲み干しはべり」とあるが、この時の姫君と若君の様子や心情についての説明として、本文の内容に合致しないものを、次の中から一つ選べ。
雪の朝《あした》
[1] 師走《しわす》十日あまり、空掻き曇り、雪いたう降りたる朝、若君《わかぎみ》は、御格子《みかうし》を押し開けて、「あな、白たへの【注1】景色や。姉上、疾《と》く起きさせたまへ。」と、御帳台《みちやうだい》に寄りて、いと騒がしう申したまふ。まだ九つばかりに(ア)おはします姫君、眠たげに目を開け、「などかう朝寒きに。」とて、なほ衾《ふすま》を引き被《かづ》き①たまひけり。
[2] 若君、「姉上は、げに②寝過ごしびとにこそ。かくをかしき雪景色を、見過ごしたまふは、いと口惜しきわざなり。」とて、強ひてその御手を取りて、縁《えん》の方へ誘ひ聞こゆ。姫君、致し方なく起き上がり、素足のままで縁に出づるに、雪の冷たさ、身にしむばかりなり。「(イ)あな、冷たや。」と思はず声に出でぬ。
[3] 二人、庭に降りて、雪を丸め、小さき雪うさぎをこしらへたまふ。若君、木の実を取りて、うさぎの目となし、姫君は、椿の葉を取りて、その耳とす。やがて、侍女《じじよ》の紅葉《もみじ》が、熱き甘酒を持ちて参るに、二人、「こは、ありがたき馳走《ちそう》かな。」とて、白き息を吐きつつ、③嬉しげにこれを飲み干しはべり。
[4] その様を、御簾《みす》の内より、母君なる女院《によゐん》【注2】、静かに御覧じ、「幼き者は、げに風の子よな。」と、うち笑みたまひて、その日のことを、御日記に細々と書き付けさせたまひけるとぞ。
【注1】白たへ:白い布。雪が積もった様子の美しい形容。 【注2】女院:夫である天皇の死後などに出家した元皇后など。ここでは姫君と若君の母。
【登場人物】
傍線部(ア)「おはします」について、ここでの敬語の種類と敬意の対象の組み合わせとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部②「寝過ごしびと」とあるが、若君がこのように言ったのはなぜか。その理由として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
傍線部③「嬉しげにこれを飲み干しはべり」とあるが、この時の姫君と若君の様子や心情についての説明として、本文の内容に合致しないものを、次の中から一つ選べ。